センター長からのメッセージ

情念、利益、科学技術

A.ハーシュマンの著作に、欧州各国の統治の混乱から安定への過程を読み解いた「The Passions and the Interests (情念の政治経済学)」と題する社会思想史書があります。国王の情念は中世においてはローマカトリックによって統制され、ルネッサンス時代に解き放たれ、近世においては社会の混乱を引き起こしており、その邪悪な情念を統制することに成功したのが金銭欲という情念に他ならないと述べられています。中世では人間の三大悪の一つとされていた金銭欲は、近世では経世済民の駆動源となったのです。

2015年3月に仙台で開催された第3回世界防災会議の準備過程において、日本学術会議は世界の科学技術コミュニティと協力して、災害リスク軽減のための統治、投資、予防と復興には科学技術が必要と主張し、その実現のためには災害リスク軽減のナショナルプラットフォームにおける関連のステークホルダーと科学技術コミュニティと対話の重要性を強調しました。この考えは、会議の合意の成果文書である仙台防災枠組に色濃く反映されました。2018年3月にブラジリアで開催された第8回世界水フォーラムにおいて、皇太子殿下は水を共有するための歴史的な創意工夫を紹介され、各地域の多様性とつながりを読み解く水循環の科学的理解の重要性を講術され、それは人々の繁栄、平和、幸福につながると強調されました。

人口や土地利用などの社会的要因の変化に加え気候が変化しています。社会が築いてきた経験知に加え、これらの変化を関連する様々な学術分野が協力して統合的にシミュレーションして、変化の影響を評価し、予測する能力を高め、その科学知を社会と共有することが、政策の決定や人々の行動に必要となっています。情念から利益へ変化したように、科学技術の理解を社会と共有する新たなパラダイムシフトが求められています。

2018年4月27日
水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM) センター長
小池 俊雄