水災害情報が乏しい地域での防災・減災活動を支援する水災害リスク情報提供システムに関する研究

研究の背景

洪水・土砂災害などの水災害は近年激甚化・多様化しているが、降雨開始から発災に至るまでには、ある程度の時間が見込める。そのため、発災前に様々な情報を収集・創出し、発災までの時間を考慮しながら活用することで、防災担当者や住民が効果的に防災・減災活動を実施し、災害被害を軽減できる可能性が高い。 しかし、地形が急峻な中山間地の河川は、以下のような問題を抱えているところが多い。

  • 洪水予報などが行われていない区間が多く、防災・減災のための情報が限定されている。
  • 平地に比べて降雨から災害発生に至る時間が短く、入手した情報を整理する時間的余裕がない。
  • 市町村防災担当部局には、必ずしも防災対応の経験が豊富で防災の詳しい知識を持つ防災担当者が少ない。
  • 平成大合併で市域が拡大し、現地の状況把握により時間がかかるため、対応策の決定(優先順位付け)に資する情報が速やかに入手できない
  • 住民が高齢化し、避難のための時間がより多く必要である。

加えて近年、住民への適切な情報提供のあり方に関し、以下のような問題提起や提言が行われている。

  • H26.8の広島市での土砂災害の検証結果では、「危険度判断手順の明確化」や「危険度の段階に応じた情報提供」などが提言されている。
  • 『新たなステージに対応した防災・減災のあり方』(H27.1・国土交通省)では、早い段階から現象の進行に応じた危険の切迫度を住民に提供することの必要性が指摘されている。
  • H27.8 社会資本整備審議会『水災害分野における気候変動適応策のあり方について』答申においては、きめ細かい災害リスク情報や危険の切迫度を住民にわかりやすく提供する必要性や、過去の災害履歴や浸水想定など様々な災害リスク情報を容易に入手できる仕組みづくりなどが提言されている。

研究の目的

上記の背景を鑑みて、本研究では、わが国の中山間地や途上国など、気象・水文に関するリアルタイム情報や予測情報が乏しい流域において、防災担当者や住民による洪水や土砂災害等に対する防災・減災活動を支援する、「水災害リスク情報提供システム」を開発し、利活用方法について検討することを目的とする。

研究期間

平成28~32年度

研究担当者

上席研究員藤兼 雅和
主任研究員大原 美保、傳田 正利
専門研究員南雲 直子
研究員諸岡 良優

達成目標

  1. 事前に災害に対して脆弱な地区(災害ホットスポット)を特定する手法の提案
  2. 発災前にリアルタイムで水災害発生可能性を地区単位で予測する手法の提案
  3. 様々な災害リスク情報を「蓄積」「共有」し、避難情報を「発信」できる「Web-GIS型水災害リスク情報提供システム」の提案
  4. 国内外における現地自治体関係者を交えた「情報提供システム」の利活用手法の提案

研究説明資料

関連する発表論文

Reviewed 査読付き論文

  • Daisuke Kuribayashi, Miho Ohara, Takahiro Sayama, Atsuhiko Konja, Hisaya Sawano: Utilization of the Flood Simulation Model for Disaster Management of Local Government, Journal of Disaster Research Vol. 11, No. 6, 1161-1175, 2016
  • 栗林大輔,大原美保,佐山敬洋,近者敦彦,澤野久弥:「洪水カルテ」による地区ごとの洪水脆弱性評価および対応案の検討手法の提案, 土木学会論文集F6(安全問題),Vol. 73, No. 1, 24-42, 2017
  • 栗林大輔,大原美保,近者敦彦,澤野久弥:「洪水カルテ」による地区危険度評価手法の提案,地域安全学会論文集 No. 31, 2017.11

Non-reviewed 査読なし論文

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  • 栗林大輔,佐山敬洋,近者敦彦,中村要介,澤野久弥:阿賀野川における降雨流出氾濫モデルの適用と浸水開始時刻の再現性検証について, 土木学会第71回年次学術講演会, 239-240, 2016.9
  • 栗林大輔,大原美保,近者敦彦,澤野久弥:「洪水カルテ」を用いた地区レベルの洪水脆弱性把握手法の適用, 平成29年地域安全学会梗概集No.39, 2017.6
  • 栗林大輔,近者敦彦,澤野久弥:降雨流出氾濫モデルを用いた主要連絡道路の交通途絶評価について,土木学会第72回年次学術講演会, 13-14, 2017.9
  • 栗林大輔,大原美保,岩崎貴志,徳永良雄:「eコミュニティ・プラットフォーム」を活用した汎用的な自治体防災情報システムの提案,平成29年地域安全学会梗概集No.41, 41-44, 2017.11