中山間地域の洪水災害レジリエンスの
総合的な向上に資する技術の戦略的開発

研究の背景

近年、水災害ハザードが集中化・強大化している中で、国交省では、「水防災意識社会再構築ビジョン」を発表(H27.12)し、直轄河川とその沿川市町村に対する防災力を強化する対策を進めているところであるが、一方で中山間地域では、観測情報が限定されている上に、降雨から災害が発生するまでのリードタイムが小さく、また高齢化の進展等もあり、災害に対する脆弱性が大きな課題となっている。都市域のゲリラ豪雨については、近年検討が進められつつあるが、中山間地域(農業への影響含む)で集中豪雨が発生した場合の検討は極めて不十分である。

H28年8月、東北や北海道で大きな被害をもたらした台風10号の豪雨により、小本川(岩手県岩泉町)は、降雨のピークから約2時間で水位が急上昇し、高齢者施設に土砂を含む流れが襲い、9名が亡くなる大惨事となった。このような中山間地における水・土砂災害を、有効な降雨観測時系列データのシンプルな解析により、いち早く危険を察知する手法を確立し、現場に導入することは喫緊の課題であり、再度災害を起こさせないためにも、実用的な手法を早急に構築し提案する必要がある。

また、山間部では特に土砂流出により河道が大きく変化し、氾濫流が複雑な流れをすることから、土砂流出と一体となった洪水流氾濫の予測を行う技術の確立が必要であり、流水と土砂の移動、地形の変化も合わせて起こりうる現象を想定し河道計画を検討する必要がある。

更に、降雨から災害が発生するまでのリードタイムが小さい一方で、市町村合併により行政組織が担当する地域が広くなり、さらに高齢者の割合も高い中山間地において、災害に対するレジリエンスを向上させるためには、現地の状況・災害特性を踏まえ、減災に効果的な災害危険度の表示法や提供方法について検討し、危険時の適切な避難につなげることが肝要であり、さらには現地の危険度情報を踏まえ、将来の住まい方について検討する必要がある。

一方、山間部における出水後に、地形の変化や浸水の状況等を迅速に把握し、二次災害に備える必要があるが、悪天候の場合や夜間は、航空機や光学衛星による状況の把握が困難である。このため、H23年台風12号による紀伊半島豪雨の時にも試みられたように、全天候型の衛星SAR(合成開口レーダ)画像による解析技術の進展が望まれる。しかしながら、SARはバンド帯が狭くモノクロであり、また二重反射等の技術的な課題をかかえていることから、解析技術の研究開発が求められている。

研究の目的

本研究では、上記の①降雨解析による簡便で迅速な洪水危険度把握技術、②流砂・流木・河床変動を考慮した洪水流予測モデル開発、③災害危険情報の創出・活用手法、④衛星SARを活用した全天候型洪水、土砂災害状況の把握技術、について、研究を行い、中山間地域における水・土砂災害の被害軽減、防災対策の強化のために、即効性のある有益な成果を提供することを目指す。これらの技術開発を戦略的に実施することによって、中山間地域の水災害軽減のために必要な河道計画の立案及び被害軽減対策への投資を的確に進めていくことが可能になり、中山間地域における水災害レジリエンスを向上させることに貢献するものである。さらに、これらの検討で得られた知見をとりまとめ、国内外に普及していくこととしている。

研究期間

平成29~31年度

研究担当者

上席研究員 伊藤 弘之、徳永 良雄
研究・研修指導監 江頭 進治
主任研究員 菊森 佳幹、萬矢 敦啓、栗林 大輔、大原 美保、Abdul Wahid Mohamed Rasmy
研究員 宮本 守
専門研究員 牛山 朋來、山崎 祐介、郭 栄珠、渋尾 欣弘、南雲 直子、原田 大輔

達成目標

  1. 中山間地域における降雨情報から洪水危険度予測を簡易に行う手法の開発
  2. 中山間地域における土砂流出を伴う洪水のシミュレーション技術の開発
  3. 中山間地域での洪水・土砂災害情報の効果的な活用手法に関する提案
  4. 高分解能衛星SARデータによる大規模な浸水域早期把握手法の開発及び地形変化把握・評価技術の開発
  5. 途上国への成果活用のための検討及びガイダンスツール開発

研究説明資料