1. ICHARM の使命

ICHARM の使命は、世界から、国、地域レベルで水関連災害とリスクマネジメントに携わる政府とあらゆる関係者を支援するために、自然、社会現象の観測、分析、手法・手段(水災害のハザード解析や脆弱性把握などリスク評価)の開発、能力育成、知的ネットワーク構築、教訓、情報の発信等を通じて、水関連災害・リスクマネジメントの世界的な中核的研究拠点としての役割を果たすことである。ここでは、水関連災害として洪水、渇水、地すべり、土石流、津波、高潮、水質汚濁、雪氷災害をいう。

ここでいう世界的な中核的研究拠点とは、(i) 革新的な研究、(ii) 効果的な能力育成、(iii) 効率的な情報ネットワーク、によって、世界をリードする人材、優れた施設、知的財産を擁する場を意味する。この3 本柱によって、ICHARM は国家、地域における現場実践の知的拠点、及び実社会での政策立案における助言者としての役割を世界において果たす。

2. ICHARM 長期プログラム(およそ10か年)

ICHARMの使命を果たすため、世界及び地域での災害の傾向及び経験と災害対応に関する地域のニーズ、重要課題、開発段階等を踏まえつつ、自然、社会及び文化といった地域の多様性を考慮する原則というローカリズムを念頭に、研究、能力育成及び情報ネットワーク構築の3本柱を有機的に連携させて、以下の活動を行う。

(i) 革新的な研究

ICHARMはこれまで、水災害のハザードに係わる観測、予測、分析手法、暴露と脆弱性の評価、分析、モニタリング手法、水災害軽減の実務的な政策メニューの提言に関する幅広い知識を蓄積し、問題解決に資する質の高い研究成果を挙げてきた。

2015年には、3月に仙台防災枠組、9月に国連持続可能な開発目標、12月に気候変動パリ協定という今後の世界の防災を進める上で考慮すべき文書が策定された。これらを通して、気候の変化に伴うハザードの変化と、開発に伴う暴露や脆弱性の変化とを一体的に扱い、現在の水災害リスクの軽減を目指すとともに、変化していく水災害リスクをモニタリング、予測し、将来の水災害リスクの緩和を図ることの重要性が強調された。また、事前の防災対策により災害被害を最小化、同様の災害の発生を防ぐとともに、災害発生時の応急活動、より良い復旧、復興をなしとげることができるレジリエントな社会づくりが重視されている。さらに、合意されたいずれの文書においても、データに基づく科学、技術の貢献が強く求められている。

以上を踏まえ、ICHARMは関係機関と連携して次の研究を行う。

(1) 水災害データの収集、保存、共有、統計化

途上国では被害や気象水文等のデータ収集、保存、共有、統計化が不十分なため、水災害の実態と地域特有の自然、社会条件に応じた合理的な防災計画を作ることが難しい。ICHARMは、この点を、防災、減災を推進する上での最も根源的な隘路と認識し、その手法の開発を今後の重要な研究テーマとする。

具体的には、ハザード、暴露、脆弱性に関するデータや関連情報の収集、保存を行い、関連するステークホルダーとの間で共有する技術を研究するとともに、現地で実行可能な被害データの収集手法を開発して実装を支援し、各国、地域が実施するデータの収集、保存、共有の促進を図る。また、現地データに衛星観測や数値モデルを組み合わせて、現地だけでは得られない統合された広域のデータや情報を作成する手法を開発し、その結果の各国、地域の保存、共有を促進する。さらに、各国による信頼性の高い水災害統計の作成を技術的に支援するとともに、関係者によるデータや情報のリアルタイム利用を可能にするデータ基盤整備への貢献を目指す。

以上により、防災、減災を推進する上での最も根源的なデータ収集、保存、共有、統計化の促進に貢献する。

(2) 水災害リスクのアセスメント

ICHARMはこれまでIFASやRRIなどのハザード評価手法や、経済被害等の脆弱性評価手法を個々に開発してきた。しかし、流域の水災害リスクを全ての関係者が理解し共有するためには、ハザード、暴露、脆弱性評価を統合して行うことが重要である。

そこで、これらの評価を統合化する手法を開発し、検証するとともに、さらなる高度化を推進する。また、地域の個別状況を踏まえた水災害リスクのアセスメントの事例研究を進め、その結果を活用することで、それぞれの地域の特性を踏まえたリスク評価を地域自ら行うことで水災害リスクの軽減に役立てることを支援する。また、仙台防災枠組のグローバルターゲットの計測手法が確立していないことに鑑み、地域適用研究を積み重ね、その相互比較を通して、国際的に利用できる方法論の開発に貢献する。

以上により、適切なリスク情報の創出とこれに基づく水災害リスクの理解の促進に貢献する。

(3) 水災害リスクの変化のモニタリングと予測

水災害リスクは、気候変化等によるハザード変化と都市化等による脆弱性の変化などにより、時間の経過と共に変化する。リスクが増加する場合には、現在のリスク情報に基づく防災対策では、将来の災害に適切に対応できない懸念が生じる。また、リスク増加に応じた対策の効果が適切に評価されないと、防災投資の経済性が過小評価されることにもなる。このため、ICHARMは過去から現在にかけてのリスクの変化を踏まえつつ、将来のリスクの予測につなげる研究を行う。

具体的には、季節変化から気候変動の影響まで様々な時間スケールの気候の変化に伴うハザードの変化と、開発や社会、経済状況の変化に伴う水災害の暴露、脆弱性の変化に関するモニタリングと予測の手法を開発、検証、高度化する。また、これを用いて事例研究を進め、それぞれの地域が手法を自ら地域の状況にあわせながら利用して、将来の水災害リスクの緩和に役立てることを支援するとともに、手法の相互比較を通して国際的に標準として活用できる手法を提案する。

以上により、水災害リスクの増大を考慮した適切な防災、減災施策の立案に貢献する。

(4) 水災害リスク軽減の政策事例の提示、評価と適用支援

途上国などでは防災投資の優先度が低いため多くの災害を受け、持続的な発展の阻害となっている。このため、ICHARMでは防災投資の有効性、効率性を明示するため、地域固有の背景を踏まえた水災害リスク軽減のための政策事例を提示し評価する研究を行う。

研究では、気候変化の下で、持続可能な開発を支える防災、減災政策の重要性に対する関係者の理解を深めるとともに、各地域の生活様式や社会・経済活動、今後のリスクの変化も考慮した各国の自立的で新しい政策提案を支援するため、政策の具体的な事例を地域への適応度の観点で分析する。また、個々の政策の社会経済に及ぼす影響を評価できる手法、モデルを開発するとともに、上記で開発されたリスクの計測方法をもとに、政策を総合的に評価し、意思決定を支援するための手法を開発、検証、高度化する。その上で、国際プロジェクトを通してこれらの事例の適用を図る。

以上により、各国政府やドナーの防災投資の意思決定に貢献する。

(5) 防災・減災の実践力の向上支援

様々な対策が減災に大きく貢献した事例がある一方で、例えば住民への情報伝達がうまく機能せず避難等が遅れて大きな被害を防げなかった事例なども多く報告されている。また想定を超える災害発生時にも、適切な救援、応急措置をとって速やかに復旧し、より良く復興できる社会を構築する必要がある。そのためには地方行政や市民の防災・減災意識の向上と実践できる体制づくりの支援が必要である。ICHARMでは、地域の社会構造や人間の行動様式などを多面的に捉え、災害時に施策の効果が最大限発揮されるよう、関係者の十分な相互理解のもと各種施策の立案から実施、効果の発現に至る手法を開発し、実装を支援する。

具体的には、早期警戒システム等から得られる情報を行政、市民間で効果的に共有できる方策を支援し、それに基づき様々なセクターによる災害への連携した対応、地域の実情に合った業務継続計画の策定、各行政機能を効果的につなぐ災害対応相互利用性(interoperability)向上のための手法の開発、検証を進め、社会実装を支援する。

以上により,市民、行政のリスク認識の向上を支援し、実践を通して地域の水災害に対する防災・減災の実践力の向上に貢献する。

(ii) 効果的な能力育成

水関連災害の確実なマネジメントには現場対応能力が不可欠であり、先進的な知識の開発と応用を重視した最新の研修を通じて、ICHARMは質の高い水関連災害・リスクマネジメントの模範的な実務者を育成し、世界的な実務者ネットワーク形成を支援する。

  1. 国際から地域に至るあらゆるレベルで災害リスクマネジメントの計画、実践に実質的に従事し、確固たる理論的、工学的基盤を有して課題解決を行うことができる実務者の育成を行うとともに、指導者の能力育成を行う。
  2. 研究活動及び現地実践を通じて蓄積したノウハウを国際プロジェクトにおける研修やICHARMにおける教育研修活動で提供することにより、水関連災害に対応し、問題解決に取り組む現地専門家、機関のネットワークを構築しその強化を図る。

(iii) 効率的な情報ネットワーク

ICHARMが有する広範な知的基盤と主な研究成果によって、世界レベルから現場レベルに至る水関連災害、リスクマネジメントを導く強力で包括的な主張の形成を支援する。

  1. 世界の研究者ネットワークを維持強化し、世界の大規模水災害に関する情報、経験を収集、解析、提供する。
  2. 水関連災害リスクマネジメントに関する技術の発信、影響力を有する国際洪水イニシアチブなどの国際的ネットワークの構築、維持を通じて、防災主流化に取り組む。

3.中期プログラム(およそ5年)

上記の使命を達成するため、今後5年間においてICHARMは関係機関と連携して次の活動を行う。

(1) 水災害データの収集、保存、共有、統計化

国内外の複数地域において、ハザード、暴露、脆弱性に関するデータや関連情報の収集、保存を行い、関連するステークホルダーとの間で共有する技術を研究するとともに、現地で実行可能な被害データの収集手法を開発して実装を支援し、各国、地域が実施するデータの収集、保存、共有の促進を図る。また、各国による信頼性の高い水災害統計の作成を技術的に支援する。

(2) 水災害リスクのアセスメント

水災害のハザード、暴露、脆弱性評価を統合化する手法を開発し、検証するとともに、さらなる高度化を推進する。また、国内外の複数地域において、地域の個別状況を踏まえた水災害リスクのアセスメントの事例研究を進め、その結果を活用することで、それぞれの地域の特性を踏まえたリスク評価を地域自ら行うことで水災害リスクの軽減に役立てることを支援する。

(3) 水災害リスクの変化のモニタリングと予測

季節変化から気候変動の影響まで様々な時間スケールの気候の変化に伴うハザードの変化と、開発や社会、経済状況の変化に伴う水災害の暴露、脆弱性の変化に関する、モニタリングと予測の手法を開発、検証、高度化する。また、国内外の複数地域において、これを用いた事例研究を進め、それぞれの地域が手法を自ら地域の状況にあわせながら利用して将来の水災害リスクの緩和に役立てることを支援するとともに、手法の相互比較を通して国際的に標準として活用できる手法を提案する。

(4) 水災害リスク軽減の政策事例の提示、評価と適用支援

気候変化の下で、持続可能な開発を支える防災、減災政策の重要性に対する理解を関係者間で深め、地域固有の背景を踏まえた政策事例を提示及び評価するため、個々の政策の社会経済に及ぼす影響を評価できる手法、モデルを開発する。また、上記で開発されたリスクの計測方法をもとに、政策を総合的に評価し、意思決定を支援するための手法を開発、検証する。

(5) 防災・減災の実践力の向上支援

国内外の複数地域において、早期警戒システム等から得られる情報を行政、市民間で効果的に共有できる方策を支援し、それに基づき様々なセクターによる災害への連携した対応、地域の実情に合った業務継続計画の策定、各行政機能を効果的につなぐ災害対応相互利用性(interoperability)向上のための手法の開発、検証を進め、社会実装を支援する。

また、これらの中期プログラムの要素研究を組み合わせ、水災害被害を最大限減らす次のプロジェクトを設定して研究を推進する。

  1. 災害情報を継続的にモニタリングして蓄積し活用する技術
  2. より早く、正確な情報を提供する早期警報支援技術
  3. 限られた情報下で水資源管理を適切に実施するための評価・計画技術
  4. 洪水氾濫原での水災害による地域社会への影響評価及び防災投資効果算定技術開発
  5. 災害被害軽減のための水災害リスク情報の利活用技術
    中期プログラムの各テーマとプロジェクトの関係については参考1参照

(ii) 効果的な能力育成

  1. 国際から地域に至るあらゆるレベルで災害リスクマネジメントの計画、実践に実質的に従事し、確固たる理論的、工学的基盤を有して課題解決を行うことができる実務者の育成を行うとともに、指導者の能力育成を行う。
    GRIPS及びJICAとの連携を強化し、博士コース、修士コース、短期研修コースを継続し、発展させる。特に博士課程を中心にICHARMの研究活動と有機的に結びつけるとともに、ICHARMの幅広い人材資源も生かし、防災プロジェクトマネジメント等のより幅広い知識を提供するよう、研修スケジュール及びプログラムを改善する。さらに、研修プログラムのモジュール化、パッケージ化を一層推進し、e-learning、モジュール作成、遠隔研修を推進する。
  2. 研究活動及び現地実践を通じて蓄積したノウハウを国際プロジェクトにおける研修やICHARMにおける教育研修活動で提供することにより、水関連災害に対応し、問題解決に取り組む現地専門家、機関のネットワークを構築しその強化を図る。
    研修成果を各現地において実践し、次世代にわたってノウハウを提供するため、研修生の資質と出身機関での役割や期待も考慮した指導性を有する研究環境を提供し、その拡充に努める。海外における専門家および関連機関とのネットワークを構築するため、帰国研修生の出身国でのフォローアップ活動を実施し、帰国研修生の能力強化及び適切な助言、所属機関の災害対応能力向上を通じた現場実践活動を継続して行う。

(iii) 効率的な情報ネットワーク

  1. 世界の研究者ネットワークを維持強化し、世界の大規模水災害に関する情報・経験を収集・解析・提供する。
    水災害情報やデータベースを収集、整備している機関との連携を図り、精度の高い情報を入手できる体制を構築する。また、ICHARMの研修・研究において各国から収集したデータをメタデータとして整理して蓄積して、これらの科学知の社会実装を支援する。
  2. 水関連災害リスクマネジメントに関する技術の発信、影響力を有する国際洪水イニシアチブ等の国際的ネットワークの構築、維持を通じて、防災主流化に取り組む。
    2015年3月に開催された第3回国連防災世界会議において採択された仙台防災枠組、2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs)等を踏まえ、防災に対する総合的な取組の実践と防災の主流化への取組に対しての貢献を継続する。特に、ICHARMが事務局を務める国際洪水イニシアチブを通じた各関係機関との連携を強化しつつ、研究及び研修活動との有機的な連携により、広範なネットワーク構築を通じた水災害・リスクマネジメント関連技術の社会実装を推進する。