流域治水の計画策定支援技術の開発

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研究の背景

 地球温暖化による気候変動の顕在化は疑う余地がなく、降雨現象の極端化による洪水・渇水被害の激甚化が予想されている。国土交通省では将来予測から計画降雨を設定し、「流域治水」への転換を打ち出し、関連法を整備した。計画降雨の推定根拠として、d2PDFと呼ばれる大規模気候予測データから、現在気候と将来気候の倍率が本州以南は一律1.1倍と推定された。大雨という極端現象への気候変動の影響は地理的・地形的に異なると考えられ、手戻りの無い対策のためには、将来の降雨条件の推定方法を高度化しておく必要がある。また、流域治水においては、様々な主体による小規模な貯留・浸透対策の実施が期待されるが、持続的な推進のためには、これら対策を流域スケールで評価・統合し、「見える化」することが重要である。

研究の目的

 (1)将来について、地域特性に応じた豪雨の規模等降雨性状の地域分布を推定する、(2)将来の水災害現象を想定するため、都市排水・流域対策等を考慮することができる解析コンポ―ネントを整備し、流域治水の計画策定を支援するシステム体系を構築する。ICHARMで開発したWEB-RRIモデルとRRIモデルを基幹モデルとして開発する。

他機関との連携

水田の水稲生育モデルの組み込みについて東北大学本間教授と連携。

研究期間

令和4年度 ~ 令和9年度

研究担当者

上席研究員久保田 啓二朗
主任研究員 牛山 朋來、Abdul Wahid Mohamed Rasmy、田中 陽三
専門研究員 Ralph Allen Acierto、玉川 勝徳、筒井 浩行

研究概要・成果

 水災害現象を表現できる解析コンポ―ネントの検討の一環として、WEB-RRIモデルを2021年に干ばつが発生した十勝川流域に適用し、根茎層土壌水分量バイアス(干ばつ年-通常年)に基づき干ばつ傾向を調査した。また小麦が減収となった8市町村がほぼ干ばつ傾向エリアに重なることを理解することができた。さらに降水量に灌漑水量を段階的に加えたWEB-RRIモデルによる試験計算を行い、根茎層土壌水分量を指標に、干ばつ年に通常年相当の収量を得るためには8市町村平均でヘクタールあたり約51(トン/日)の灌漑水量が必要になるという結果を得た。このように十勝川流域において昭和から盛んに進められてきた国営かんがい排水事業を、この8市町村にも拡張してゆくことが、今後の重要な課題になるものと考えられる。