洪水予測に基づく既設ダム等の治水機能の強化・発現技術に関する研究

pdfファイルはこちら

研究の背景

 近年、毎年のように日本各地でこれまで経験したことのないような豪雨により、深刻な水災害が発生している。また、地球温暖化による気候変動の顕在化は疑う余地はなく、今後さらに降雨現象の極端化による洪水・渇水被害の激甚化が予想される。国土交通省では、令和元年東日本台風等を踏まえ、緊急時において既存ダムの有効貯水容量を洪水調節に最大限活用できるよう、速やかに必要な措置を講じることとし、「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本的な方針」が令和元年12月に定められた。

研究の目的

 河川の氾濫を減らすダムの事前放流をより効果的に行うため、数日先までの降雨・洪水を高い精度で予測する技術を開発し、予測精度に応じたダム操作方法を策定する。アンサンブル予測を用いた降雨・流出予測精度の改善を行う。

他機関との連携

東京大学、日本工営株式会社、中部電力株式会社、東京電力リニューアブルパワー株式会社

研究期間

令和4年度 ~ 令和9年度

研究担当者

上席研究員久保田 啓二朗
主任研究員 Abdul Wahid Mohamed Rasmy、牛山 朋來
専門研究員 玉川 勝徳

研究概要・成果

 降雨予測の不確実性の幅を定量化できるアンサンブル降雨予測システムと、洪水から渇水まで積雪・融雪も含めてシームレスに計算できる水文モデルWEB-DHM-Sからなる河川流出アンサンブル予測システムを開発した。WEB-DHM-Sにアンサンブル降雨予測データを入力し、得られる32個のアンサンブル予測流入量の幅を考慮し、洪水調節に重きを置く場合と、増電のための水量確保に重きを置く場合に分けて、アンサンブルの上位と下位を選択した。また、ダムから安全に放流できる流量を超えないこと、流入量が貯留可能な容量を超えないことを優先し、洪水前のダムから事前放流を行うダム操作手法を考案した。この手法を大井川の畑薙第一ダムに適用し、シミュレーションを行った。①流入量予測時点でダム湖の貯水位が満水位であるため②事前放流をし③ダム湖水位を下げて洪水調節容量(治水容量)を確保し④流入量を効果的に貯留して⑤⑥ダムからのゲート放流量を下流に対して安全な600m3/s以下に抑え⑦洪水後に満水に戻す。このような操作を2018年暖候期(7~10月)に適用することで12.7%の増電に貢献することができた。なお、この手法は国内のみならず、海外へも適用可能な手法で各国の治水に加え、カーボンニュートラルに大きく貢献可能な技術である。