気候変動の影響を考慮した最大降雨量の推定方法に関する研究

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研究の背景

 国土交通省が2015年1月に公表した「新たなステージに対応した防災・減災のあり方」を受け、2015年5月に水防法の一部改正が行われ、想定しうる最大規模の洪水・内水・高潮への対策(ソフト対策)の充実・強化が盛り込まれた。

 その際、想定最大規模降雨の降雨量は、降雨特性が似ている15の地域ごとに過去の降雨データを解析(DAD解析)して、降雨継続時間別、面積別に算定された。その結果を基に、洪水浸水想定区域や洪水ハザードマップ等が作成されたものの、気候変動の影響は考慮されていない。

 その後、2016年には、全世界60kmの解像度、日本域20 km の解像度を備えた地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDF)が開発され、さらに2023年12月には 先端プログラムの下で、5kmの解像度に改善されるなど、気候変動の影響を考慮するための条件が整ってきた。

 一方で、気象庁の発表によると、2018年7月に発生した西日本豪雨の要因については、地球温暖化に伴う水蒸気量の増加の寄与があったと考えられていることから、気候変動の影響を考慮したソフト対策を進めていくことが、今後より一層重要になると考えられる。

研究の目的

 5kmの解像度を持つd4PDFの大規模アンサンブルデータセットを用いて降雨量変化倍率を計算することで、最大降雨量に対する気候変動の影響を定量化する。

 気候変動の影響を考慮した降雨量変化倍率は、気候変動の影響を考慮したソフト対策の見直し、例えば、洪水ハザードマップの更新等に貢献する。

研究期間

令和4年度 ~ 令和6年度

研究担当者

上席研究員久保田 啓二朗
主任研究員 牛山 朋來、田中 陽三
専門研究員 Ralph Allen Acierto

研究概要・成果

 上述した15地域のうち九州北西部と九州南東部の2地域を対象地域として研究を進めている。

 使用した5 kmのd4PDFデータセットには、12のアンサンブル毎に1950年から2010年までの60年間の現在の気候(計720年分)と、2050年から2110年までの60年間の将来の+4K気候(計720年分)が含まれており、九州北西部と南西部のそれぞれの地域で、現在と将来の両期間の降雨に対してDAD分析を実施した。

 図1は、ある降雨イベントに対してDAD分析を実施した際の一例である。ステップ1では豪雨イベントのリストから対象となる降雨を選択し、ステップ2では対象地域の降雨を抽出している。さらにステップ3ではWMOが1969年に公表したマニュアルに基づき、FEM法(変形面積法)によって積算雨量と雨域面積のテーブルを作成し、ステップ4でそれをグラフ化している。

 気候変動の影響を推定するため、現在気候と将来気候を用いたDAD分析の結果を比較し、降雨量変化倍率を計算した結果、+4Kシナリオの下での平均的な降雨量変化倍率は、九州北西部で1.05~1.34、九州南東部で1.07~1.31となることが初めて明らかとなった。これは、川瀬ら(2023)の既往研究で年超過確率1/100、1時間積算雨量に対する降雨量変化倍率が1.26であったことからも、妥当な結果であると考えられる。

図1.九州北西部の現在気候の期間における HPB_m002アンサンブルの24時間降雨による積算雨量と雨域面積の計算結果の例。 現在と将来の両期間の各アンサンブルメンバーの降雨継続期間 (1時間から72時間) 毎に、同じ手順を行います。